一人経理で相談できる人がいないとき:税理士・社労士・弁護士への聞き分けと聞き方
結論
一人経理の不安は、税金とお金の記録は税理士、社会保険・労働保険と働くルールは社労士、契約と揉めごとは弁護士と、聞く先を先に決めておくと減らせます。
- 一人経理の不安の多くは、「これで合っているか、誰も確かめてくれない」 ことです。自分で決めきろうとせず、聞く先を先に決めておく と減らせます
- 大まかな分け方は、税金とお金の記録は税理士、社会保険・労働保険と働くルールは社労士、契約と揉めごとは弁護士 です。1つの困りごとに、税の面と労務の面が両方あることも多いので、境目の表で分けます
- 迷ったら、いちばん話しやすい顧問に 「これはどなたに聞くべきですか」 と聞きます。顧問がいない分野は、公的な窓口(無料の社労士会の総合労働相談所・総合労働相談コーナー・よろず支援拠点、国税庁の相談窓口)を使えます
- 聞くときは、事実・自分の案・期限 の3つを1通にまとめて送ります。答えは記録して、同じことを二度聞かずに済むようにします
私が従業員10人規模の会社で経理・人事労務を一人で回していたときに頼ったのも、顧問の税理士・社労士・弁護士でした。
この記事が役に立つ人
- 従業員10人前後の会社で、経理(と給与・労務)を一人で担当している人
- 顧問の専門家はいるが、何をどこまで聞いてよいか迷っている人
- 顧問がいない分野(社会保険だけ、法律だけ など)で、判断に困ったことがある人
上位の記事との違い
「一人経理」で出てくる会計ソフト会社の記事は、一人経理のリスクと、税務署などの無料の相談先を紹介するものが中心です(例:マネーフォワード クラウドの記事)。経営者の目線を含めて書かれています。税理士紹介サイトの「税理士に何を相談できるか」も、経営者や個人事業主の側から書かれています。
この記事は、社内の担当者が、目の前の仕事を「誰に聞くか」決めるため の表と文面に絞っています。
「相談できる人がいない」不安を、3つに分ける
「一人で不安」をひとまとめにすると、どこから手を付けてよいか分かりません。中身で分けると、減らし方が違います。
| 不安の中身 | 例 | 減らし方 |
|---|---|---|
| 判断が合っているか | この支払いの科目・税区分は? この働き方の残業代は? この契約の条文は大丈夫? | 聞く先を決める(この記事) |
| 期限・漏れがないか | 納付や届出を忘れていないか、自分しか気づけない | 期限の一覧を作る → 業務フロー表の作り方 |
| 心身がもたない | 休めない、眠れない、仕事のことを考えると体調が崩れる | 先に相談する → 一人経理が休めない・辞めたいとき |
この記事は1つ目の「判断」の不安を扱います。
税理士・社労士・弁護士の聞き分け
| 相談先 | 聞くこと(例) | 頼める作業(公式の説明) |
|---|---|---|
| 税理士 | 仕訳の科目・税区分、消費税、源泉所得税、年末調整の判断、決算・申告、インボイス、印紙が要るか | 税務代理(申告・税務調査の立会いなど)、税務書類の作成、税務相談(日本税理士会連合会) |
| 社労士 | 入社・退職の社会保険と雇用保険の手続き、算定基礎届・年度更新、就業規則、36協定、労働時間・残業の扱い、給与計算の決まり | 労働保険・社会保険の書類の作成と提出の代行、賃金台帳などの帳簿の作成、就業規則・労使協定の作成、労務の相談(全国社会保険労務士会連合会)。給与計算も受けている(同) |
| 弁護士 | 契約書の確認、取引先や従業員との揉めごと、法律に触れるおそれがあるときの判断 | 法律相談、和解・示談交渉、訴訟などの法律事務。紛争を防ぐための助言(日本弁護士連合会) |
社労士の書類の作成・提出の代行や就業規則の作成は、社労士でない者が報酬を得て行うことはできない とされています(全国社会保険労務士会連合会)。外に頼むときも、この線に沿って頼む先を分けます。
迷いやすい境目:1つの困りごとを、面ごとに分ける
一人担当が迷うのは、1つの困りごとに、税の面と労務の面がある ときです。困りごとで聞く先を1つに決めず、面ごとに分けて聞きます。
| 困りごと | 税の面 → 税理士 | 社会保険・労働の面 → 社労士 | 揉めそうなら → 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 毎月の給与計算 | 源泉所得税、年末調整 | 社会保険料・雇用保険料、賃金台帳 | — |
| 入社・退職 | 扶養控除等申告書、源泉徴収票 | 資格取得届・喪失届 | 退職の条件をめぐる争い |
| 手当を新しく作る | 課税か非課税か | 就業規則・賃金の決まりの変更 | — |
| 業務委託で人に仕事を頼む | 報酬から源泉徴収するか | 実態が雇用にあたらないか | 契約書の条文 |
| 契約書を交わす | 印紙が要るか | — | 条文の確認 |
| 従業員とのトラブル | — | 就業規則に沿った対応 | 争いになりそうなとき |
「給与計算は税理士か社労士か」と迷ったときも、この表のように 税金の部分は税理士、保険料と帳簿の部分は社労士 と分けると、聞く先が決まります。どちらかの事務所がまとめて引き受けている場合もあるので、顧問契約の範囲を確かめます(後述)。
10人前後で変わること:先に顧問に聞いておく
従業員10人前後の会社は、人数で決まりが変わる境目にいます。人が増える前に、顧問に「うちは当てはまるか」を聞いておきます。
| 変わること | 聞く先 | 出典 |
|---|---|---|
| 常時10人以上 の従業員を使う会社は、就業規則を作り、労働基準監督署に届け出る 義務がある(労働基準法89条)。変えたときも届出が要る | 社労士 | 厚生労働省 |
| 源泉所得税を半年分まとめて納める 納期の特例 は、給与の支給人員が 常時10人未満 の会社が、税務署に申請して承認を受けると使える(納付は7月10日と翌年1月20日)。常時10人以上になったら「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を出す | 税理士 | 国税庁 No.2505 |
「常時」に誰を数えるか(パート・アルバイトを含むか など)は、制度ごとに顧問に確かめます。自分で数え方を決めないことです。
顧問がいない分野があるとき:公的な窓口
10人規模の会社では、税理士とは顧問契約があっても、社労士や弁護士とはない、という形もあります。顧問がいない分野は、次の窓口で一般的な答えを聞けます。
| 窓口 | 何を聞けるか | 形 |
|---|---|---|
| 社労士会の総合労働相談所 | 採用から退職までの労働・社会保険の問題、年金。経営者(会社の側)も使える | 各都道府県の社労士会。共通ダイヤル 0570-064-794。無料。一部地域を除き予約制の対面相談 |
| 総合労働相談コーナー(厚生労働省) | 解雇・雇止め・賃金の引下げ・嫌がらせなど、労働問題のあらゆる分野。労働者・事業主のどちらからも 受ける | 労働局・労働基準監督署など。無料・予約不要 |
| 国税庁の税についての相談窓口 | 一般的な税の質問 | 電話・税務署での相談など(リンク先で確かめる) |
| よろず支援拠点 | 経営上のあらゆる相談 | 国が設置した無料の経営相談所。中小企業基盤整備機構が活動を支援。47都道府県。何度でも |
| ひまわりお悩み110番(日本弁護士連合会) | 各地の弁護士会の法律相談の予約 | 0570-783-110。有料(相談料は地域や内容で異なる) |
窓口の答えは、会社の事情を全部知ったうえでの判断ではありません。聞いた答えは「一般的にはこう」として記録し、会社として決めるときは、顧問か会社の責任者に確かめます。受付の時間や形は変わることがあるので、リンク先で確かめてください。
聞き方:そのまま送れる相談文
顧問の専門家は、事実・案・期限 がそろっていると早く答えられます。1通に1つの質問にして、次の形で送ります。
件名:【ご相談】◯◯の扱いについて(◯月◯日までにご回答いただけると助かります)
◯◯先生
◯◯(会社名)の◯◯です。◯◯の扱いについてご相談させてください。
【起きたこと】◯月◯日に、◯◯がありました。(金額・人数・日付など、分かっている事実だけ)【自分の案】◯◯として処理しようと考えています。理由は◯◯です。【迷っている点】◯◯の場合も同じ扱いでよいか、が分かりません。【期限】◯月◯日の給与の支払い(または申告・届出)に間に合わせたいです。【添付】◯◯(契約書・明細など)
この件が先生のご担当外でしたら、どなたに聞くべきか教えていただけると助かります。
書くときのコツは4つです。
- 事実と自分の案を分ける — 案があると、専門家は「その案でよいか」を見るだけで済みます
- 期限を件名に書く — 給与の支払日や申告の期限に間に合うかが、担当者にとっていちばん大事です
- 最後の1行を入れる — 担当外のときに、「どなたに聞くべきか」を返してもらいやすくなります
- 個人の情報は最小限にする — マイナンバーなどを本文に書かず、要るときは顧問の指定する方法で渡します
聞いた答えを残す:判断の記録
一人担当は、聞いた答えを自分の頭の中にだけ残しがちです。1行ずつ表に残す と、次に同じことが起きたときに迷わず、休むときや引き継ぐときにもそのまま渡せます。
| 日付 | 相談先 | 質問 | 答え | 根拠 | 次から |
|---|---|---|---|---|---|
| (例)2026-10-01 | 顧問税理士 | 新しく作る◯◯手当は課税か | 課税。給与に含めて源泉徴収する | メールの回答(◯月◯日) | 給与の設定に反映済み |
| (例)2026-10-05 | 顧問社労士 | ◯◯手当を足すとき、就業規則の変更は要るか | 賃金の決まりの変更が要る | 打ち合わせのメモ | 変更案を依頼中 |
※ 記入例はダミーです。
この表は、業務フロー表の作り方 の「判断の記録」と同じものです。業務フロー表の「例外のとき」の欄から、この記録へつなげておくと、次から迷いません。
一人で決めないこと
一人担当は、誰も確認してくれないので、間違いがそのまま残ります。次のものは、分からないまま自分で決めず、空欄のまま残して専門家に確かめます。
- 仕訳の 科目・税区分
- 社会保険・雇用保険に 入るか入らないか、保険料の扱い
- 労働時間・残業代の 計算の決まり
- 契約書の 条文、取引先・従業員との 揉めごとへの返事
「とりあえずこうしておいて、あとで聞く」は、あとで直す手間が増えます。期限が迫っているときほど、先に1通送っておきます。
顧問契約で確かめておくこと
顧問がいても、どこまで頼めるかを知らない と、聞くのをためらってしまいます。契約書か、次の打ち合わせで確かめておきます。
| 確かめること | 例 |
|---|---|
| 顧問料に含まれる範囲 | 相談だけか、書類の作成・提出まで含むか。給与計算・年末調整は別の契約か |
| 連絡の手段と、返事の目安 | メール・チャット・電話のどれがよいか。何日くらいで返事が来るか |
| 担当外のときの紹介 | ほかの士業の紹介を頼めるか |
| 会計ソフトの対応 | 事務所が対応しているソフトと、データの受け渡し方 |
最後の会計ソフトについては、私が会計ソフトを選んだときも、決め手は税理士が対応しているかどうかでした。聞き方は 会計ソフトは顧問税理士の対応を確かめてから選ぶ にまとめています。
つまずきやすい所
- 困りごとを1人の専門家にまとめて聞いて、担当外の部分があいまいなまま返ってくる — 境目の表で、税の面と労務の面に分けてから聞きます
- 「こんなことを聞いてよいのか」と遠慮して、期限の直前になる — 顧問料に相談が含まれているなら、早めの1通がいちばん手間の少ない聞き方です
- 公的な窓口の一般的な答えを、そのまま会社の決定にする — 会社の事情を踏まえた判断は、顧問か会社の責任者に確かめます
- 聞いた答えを記録しない — 同じ質問をまた送ることになり、引き継ぎのときにも残りません
- 人数の境目に気づかない — 常時10人以上で就業規則の届出、納期の特例の届出。人が増える前に顧問に聞きます
まとめ
- 一人経理の不安は、判断・期限・心身 の3つに分けると、減らし方が分かる
- 判断は、税金とお金の記録は税理士、社会保険・労働保険と働くルールは社労士、契約と揉めごとは弁護士。1つの困りごとを、面ごとに分けて聞く
- 迷ったら、話しやすい顧問に「どなたに聞くべきか」を聞く。顧問がいない分野は、公的な窓口(社労士会の総合労働相談所・総合労働相談コーナー・よろず支援拠点は無料)
- 相談文は 事実・案・期限 の3つ。答えは判断の記録に残す
- 分からないものは、自分で決めない
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